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都市づくり研究所
四都物語 カナダの四都市にみる再開発実例
 国旗に赤のメープルの葉が描かれている国カナダは、これから最高の紅葉の季節を迎える。厳しく長い冬を迎える前のひと時に、海外住宅・都市開発事情視察団の一員としてカナダを訪れたのは去年の秋のことであった。東海岸で3都市、そして西海岸の1都市である。
 紅葉した街路樹に彩られた舗道を歩きながら、ヨーロッパに比べるとはるかに浅い歴史にもかかわらず、街の個性を作り上げてきた人々の営みに思いを馳せ、この国の街づくりを考えてみた。
 題してカナダ「四都物語」である。
■モントリオールと「景観」
 カナダ東海岸、第二の都市モントリオールではMMC(Montreal Metropolitan Community)を訪問し市の都市計画と地下街ネットワークのレクチャーを受けた。街の中心にある「王の山」モンロワイヤルよりも高い建物を建ててはならないなど積極的に景観形成を誘導し、厳しい冬を克服できるようビル地下をつなぐ地下ネットワークを延々と続けてきた実績がある。ボイズベルド教授による地下街の案内をはじめ、LAVO工場跡地の集合住宅、1976年オリンピック会場の跡地など視察対象は盛りだくさんであった。
 中でもここでとりあげる「ベニファーム」という住宅地区はノートルダム・ド・グレイス地区に戦後すぐ大戦の復員軍人の住宅として総戸数384戸のアパート群として建設されたものが、その後老朽化し、1989年にCMHC(カナダ住宅金融公社)が再開発を計画した。これに民間のCanada Lands Companyが土地を取得し加わり、2003年に着工した住宅団地である。このようにインフラ等の環境整備を公共(パブリック=P)、が住宅を民間(プライベート=P)が役割分担し共同事業(パートナーシップ=P)を計画する方式は略してPPPといわれ近年わが国でも一般的になりつつある。
 団地はゆったりとした配置で、レンガとグレーの塗装により景観の統一が図られている。夏は暑く冬は零下何十度という厳しい気候のせいかバルコニーはやや小さめで、ガラス手すりの透明感がレンガの壁面とがうまくコントラストしている。団地内外の共用施設はかなり充実している。クラインガルテン(小農園)あり、太陽熱温水器あり、教会、集会施設が整っている。周辺のニ戸一の住宅街も同じようなデザイン・モティーフで展開されている。
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レンガとガラスの構成 コンパクトなバルコニー
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クラインガルテン(小農園) 教会と広場
■トロントと「文化」
 先住民の言葉で「人の集まる場所」という意味を持つトロントは、オンタリオ州の州都、カナダ第一の都市で、多くの企業が集まる金融・経済の中心地である。
 オンタリオ湖岸の既存市街地には伝統的な建物の再生として、セントローレンス地区の市庁舎を市場に再生したセントローレンスマーケットがある。竣工当時のままに市場として活用されており、その周辺ではデザインガイドラインを活用した再開発が進んでいる。
 553mの高さを誇るCNタワーのある地区は81haの鉄道操車場跡地の再開発である。CNタワーの後に1988年サミットで使われたコンベンションセンターが建てられ、開閉機能付きのスカイドームが建設されトロントの活気を継続的に牽引している。
 一方、有名なトロント市庁舎の周辺はロイトムソンホールやカナディアン・オペラカンパニ−を含む劇場街が集中し、文化施設が充実している。このように大都市に必要な文化施設をまとめて配するところがこの都市の活力を生んでいるといえよう。
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セントローレンスマーケット南館 CNタワーとスカイドーム
■ナイアガラ・オン・ザ・レイクと「歴史」
 18世紀に一時カナダの首都になった経緯をもつこの町は、人口1万5千人にも満たず、他の3都市に比べるとはるかに小さな町であるが、カナダの歴史を象徴する街として取り上げることにした。
 街のシンボルの時計塔を中心に、メインストリートに沿ってホテルや商店・博物館、セントジョージ劇場などが並び、行きかう馬車や洒落たサインも相まって往時の面影を演出している。ここでは19世紀のカナダを目に見える形で演出することでその個性を表している。
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時計塔と街並み セントジョージ劇場
■バンクーバーと「環境」
 最後に訪れたバンクーバーは太平洋岸にあるカナダ第三の都市である。暖流のおかげで冬でも穏やかな気候で、世界で最も住んでみたい街との定評がある。
 この都市では、ウォーターフロントに今なお「蒸気時計」が残るガスタウン地区や、下町のイエールタウンとオリンピックビレッジ、学校の校舎を連結再生したシティースクエアー、工場群の建物をそのままに活用したグランビルアイランドなどを訪れた。
 イエールタウンは1920年代に栄えた倉庫・工業地区で、産業構造の変化により衰退した地区を、その施設を活用し近年IT関係の先進的産業地区へと変貌しつつある地区である。
 オリンピックビレッジは冬季五輪の選手村として使用されあと、跡地を集合住宅として再開発した地区で、敷地内には当時の面影を残しながらビオトープを再現するなど環境に配慮した計画となっている。
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イエールタウンの街並み オリンピックビレッジ
 シティースクエアーは1908年開校の二つの校舎を鉄骨とガラスで連結した商業施設である。内壁の一隅には「へリテージ・ビルディング・リハビリテーションプログラム」の銘版がはめ込まれている。カナダ全土で2172件の登録数を数える歴史的建造物の再生プログラムで、改修費用の1/2まで補助(上限内)が出る制度である。ここバンクーバーの街なかでもその銘版を隋所に見ることができる。
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歴史的建造物とガラスの対比 シティスクエアー内部
 最終日には高架道路の下に工場廃屋をそのまま利用した商業施設「グランビルアイランド」を視察した。まず運営主体であるCMHC(カナダ住宅金融会社)の事務所で説明を受け、島内を案内されたが、商業施設やデザイン学校・劇場に混じり現役のコンクリートプラントが稼働するなど、常識を超えた施設構成により集客できる実績に感心させられた。
 住んでみたい都市ナンバーワンといわれるこの街のこれらに共通するのは豊かな緑自然を背景にした環境の活用といえる。
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  グランビルアイランド
■「都市づくり」のレシピ
 10日あまりの視察を終えて、現実の日常業務に戻ることになった。今回のカナダ四都市の視察により、当時作成された景観形成ガイドラインやデザイン方針の仕組みが個々の建物のデザインにどのように結実したかを理解することができた。
 現在当事務所では都心の再開発、地方都市の中心市街地開発、震災復興の都市計画、そして海外の都市づくりなどの計画が進められている。それらの進捗状況は、都市計画スキーム、官庁との折衝、施設配置計画、個々の建物のデザインなどの様々な段階にあるが、いずれも政策や経済情勢の変化に左右され、長い時間を要するプロジェクトが多い。
 現在担当している都心の再開発では、複数の事業者が順次参加する形をとっており、街全体の統一感と調和を図るため「景観ガイドライン」を作成し調整にあたっている。最初の街区の完成のあと、この視察の成果を参考に「景観・歴史・文化・環境」の要素をさらに深めながら、次の街区の着工にこぎつけることができた。
 しかし「ガイドライン」は言ってみれば料理の「レシピ」のようなもの。それだけでは味気ない料理になってしまう。「景観・歴史・文化・環境」といった数々の「スパイス」によってそれが豊かな食卓にも変化する。街全体の完成は数年後になるが、スパイスのきいた街づくりとなることだろう。
(都市づくり研究所 2012/10/29)
 
 
 
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